《『星の王子さま』の話》         

 クリスマスシーズンになりますと、町は暖かい雰囲気に包まれます。今では少し変わってきているかもしれませんが、以前はこの季節に上映される映画も心温まるものが多かったように思います。たとえば、「クリスマス・キャロル」などは、お金がすべてだと思っているような者が家族愛の大切さを知っていくようなストーリーになっています。

子どものために書かれているクリスマス用の絵本も、家族愛や隣人愛の大切さを語っているものが多いようです。立教女学院短期大学名誉教授の高橋洋代さんによりますと、世の中に出ているクリスマス用の児童絵本は、三つの種類に分けられるそうです。@イエス・キリストの誕生物語をなぞったもの。A冬の夜、サンタ・クロース、クリスマス・プレゼント、クリスマスの日の幸せな家族や仲間たち。Bトルストイの「靴屋のマルチン」に見られるような貧しい小さな存在を大切にすることはイエス・キリストの、御心に沿うものだするメッセージ。

サン・テグジュペリの書いた『星の王子さま』も、クリスマス用の童話の依頼を受けて書かれたものでした。しかし、高橋氏によりますと、この本は、従来の三種類のクリスマス物語に相当するような内容は、すぐにそれとわかる形では描かれていないということです。そして、この本の中で、もっとも心に残る言葉として有名なものは、「大切なものは目に見えない」というものだと高橋氏は語っています。そして、次のようにも言っています。「見えないものの存在を信じることは、神の存在をも示唆しているとも言えるのではないだろうか。私はサン・テグジュペリが、この小さな王子さまの物語そのものを、彼の聖書物語として書いたのではないかと考えている」

『星の王子さま』には、神ということばはありません。しかし、聖書に出てくるモチーフを多く見つけることができます。たとえば、「星」「ヘビ」「リンゴの木」「井戸」「水」「砂漠」「羊」などです。聖書で星といえば、占星術の学者たちが星によって救い主キリストの誕生を知り、誕生の場にたどり着きました。羊については、羊飼いたちが夜、羊の番をしている時に、天使たちが羊飼いたちにキリストの誕生を知らせました。ですから、『星の王子さま』は、サン・テグジュペリなりの聖書物語なのです。「『星の王子さま』からのクリスマス・メッセージ」(高橋洋代著、教文館)参照

さて、この本の重要なメッセージは、「大切なものは目に見えない」でした。そして、見えないものの存在を信じることは神の存在を示唆しているということでした。大切なものは目に見えないということには、多くの人が同意してくださると思います。愛は見えませんし、希望や永遠なども、物ではないので見えません。しかし、サン・テグジュペリは愛を讃美したのではありません。その本は、見えない大切なものの代表格としての神を指し示しています。あなたにとって見えない大切なものは神ではないかもしれません。そして、ある人にとって神とは、実際には存在しないものであるかもしれません。また、ある人にとって神とは、尊いものならみんな神である場合もあるかもしれません。しかし、この場合、尊いものなら何でもあやかりたいとか、利用させていただきたいとか、そのような思いが伴っていることもあります。神は、人間が利用する存在ではなく、心から畏れ敬うべき存在であるはずです。また、神は永遠に存在するお方であり、すべてを見ておられる存在です。そのような神を畏れ敬うことから、きれいな心が育つはずです。見えない神は、私たち人間がよく神を理解できるように、救い主イエス・キリストをおくってくださいました。クリスマスはそのことを祝う日です。ぜひ教会においでくださり、クリスマスメッセージに耳を傾けていただきたいと願っています。おいでをお待ちしています。

(大泉聖書教会牧師 池田尚広)