《救世軍のこと》

「救世軍」という団体をご存じでしょうか。昭和世代の方々は新聞などで見聞きしたことがある名前だと思います。しかし、今の若い人たちはこの団体が宗教団体だと聞けば、怪しい団体と思う人もいるかもしれません。

 救世軍〔The Salvation Army〕は19世紀後半にイギリスで設立された社会貢献活動をおもに行うキリスト教の一つの団体です。日本では明治から昭和初期にかけて行った廃娼運動やその他の社会貢献において大きな働きをしてきました。

 今の人は想像できないかもしれませんが、昭和初期まで生活が苦しくなった家では女性が売られていくことがありました。家の生活を苦しくさせる一つの原因として、男性のアルコール依存率が高かったことがあります。それで、酒のために娘を売るということも昭和初期まで行われていました。日本において売春防止法のような法律が成立するために、救世軍の働きやキリスト教婦人矯風会という団体の働きは大きかったと言えます。

 現代でも続いている救世軍の重要な働きの一つに、年末に行っている「社会鍋」(しゃかいなべ)があります。イギリスで鍋を献金箱として生活困窮者たちへの募金を行った形式に従って、今でも大きな鍋が献金箱として使われています。その鍋の近くで、よく金管楽器が演奏されているのも伝統です。

 クリスマスの時期に、欧米ではプレゼントを贈り合う習慣があります。社会鍋の活動が年末に行われるのも、生活困窮者へのプレゼントとして行われたであろうことは想像できます。

 救世軍はイギリスに本部を置き、世界131の国と地域で活動しているキリスト教(プロテスタント)の団体です。

19世紀のロンドンは、酒びたり、犯罪、不道徳、貧困、失業、人口密集、その他の社会悪が蔓延していました。メソジスト派の牧師ウイリアム・ブースという人が、生活困窮者たちのためのボランティアの働きをするなかで「我々はボランティア・アーミーではなく、サルベーション・アーミーである」(サルベーションとは「救い」という意味)と語ったことから、この団体が形成されていきました。生活困窮者たちを直接助けることだけをするのではなく、政治、教育などに働きかけ、自分たちも組織化した活動が必要であるとウイリアム・ブースは考えたのだと思います。(ちなみに、メソジスト派で有名な日本の大学といえば青山学院大学があります)

ところで、救世軍が年末に繁華街で行っている社会鍋ですが、英語ですと「クリスマス・ケトル」(Christmas kettle)と言います。前述のように、欧米ではクリスマスシーズンにプレゼントを贈り合う習慣があったことから、救世軍はこの働きを始めたと考えられます。

クリスマスとプレゼントとの関係は、神が「救世主」というプレゼントを人類に与えたというキリスト教の教えと関係があります。キリストとは救世主という意味があります。「人が救われるのは人間の努力によらずに、神からのプレゼントを受け入れることによる」というのがキリスト教の根本の教えです。人間の行為としてただ一つ必要なことは、その救いを素直に受け入れるということであるわけです。

神からのプレゼントはどのような意味でプレゼントなのか、ぜひ教会に来ていただいて知っていただきたいと願っています。クリスマス礼拝、イブ礼拝にぜひおいでください。教会ではあなたのおいでをお待ちしています。 〔大泉聖書教会牧師 池田尚広〕

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