《信頼から生まれる力》

 杉原千畝(すぎはらちうね)さんのことは、多くの人がご存知だと思います。ナチスドイツによるユダヤ人への迫害が激しかった頃、多くのユダヤ人がリトアニアを通って逃げようとしました。リトアニアのカナウスにあった日本領事館の領事代理だった杉原さんは、日本本国の指示よりも、人道的な判断を優先させて6000人のユダヤ人を救ったということで有名です。家族はその後、日本政府から厳しい扱いを受けることとなります。2年以上もソ連のある場所に軟禁され、日本に帰ってきて外務省に報告に行くと「君の籍はなくなっている」という宣告を受けました。

 私たちの歩みの中で、正しいことはわかっていたとしても、それを行うことはものすごく勇気がいる場合があります。そのような時に私たちの意思を支えるものは、単なる道徳心や自分の信念というレベルのものでは不十分ではないでしょうか。杉原夫人は自分の著書の中で、次のように言っています。

「もしもう少し、ユダヤ人がカウナスに来るのが遅れていれば、日本の領事館は閉鎖された後で、日本の通過はだめであったであろう。カウナスでのあの一ヵ月は、状況と場所と夫という人間が一点に重なった好運な焦点でした。私達にこういうことをさせるために、神は遣わされたのではないかと思ったものです。」(「六千人の生命のビザ」大正出版P.45)

 杉原千畝さんは当時、すでに正教会(キリスト教会のひとつ)において信仰を持っていて、奥さんについても上の文章から信仰を垣間見ることができます。

 日本人の大多数の人は、宗教に対して否定的な考えを持っています。しかし、自分の人生をかけて正しい決断をしなければならないような場合、本当に私たちは自分の信念や道徳心で正しい決断をすることができるでしょうか。そもそも道徳心というようなものは、畏れ敬うべき存在を持つことによって健全に働くのではないでしょうか。神を信じるということは、自分の向上心を捨てることではありません。むしろ、人のうちにある良いものが正しく作用するように促すのです。

聖書の中に次のようなことばがあります。

「悪を行なう者に対して腹を立てるな。不正を行なう者に対してねたみを起こすな。彼らは草のようにたちまちしおれ、青草のように枯れるのだ。(しゅ)(神)に信頼して善を行なえ。地に住み、誠実を養え。主をおのれの喜びとせよ。主はあなたの心の願いをかなえてくださる。あなたの道を主にゆだねよ。主に信頼せよ。主が成し遂げてくださる。主は、あなたの義を光のように、あなたのさばきを真昼のように輝かされる。主の前に静まり、耐え忍んで主を待て。おのれの道の栄える者に対して、悪意を遂げようとする人に対して、腹を立てるな。怒ることをやめ、憤りを捨てよ。腹を立てるな。それはただ悪への道だ。悪を行なう者は断ち切られる。しかし主を待ち望む者、彼らは地を受け継ごう。」

(旧約聖書詩篇37篇1〜9節)

 私たちが自分を落ち着かせるためには、世界を支配しておられる存在(神)に信頼することがいちばんです。しかし、私たち人間は自分の中でなんとかすべてのことを解決したいという考えがあり、他の存在に信頼するということを素直にしたくない感情があります。そこで、宇宙の真理につながるとか、世界を動かしている法則を我がものとするとか、そのような考えに惹かれるのです。

 法則を信じることができるなら、その法則をこの世界に置かれた存在を信じてほしいと思います。法則という抽象的なものを信じるよりも、はるかに神という存在を信じるほうが私たちの心に平安を与えます。そして、それはなかなか先が見えないような状況を乗り切る力となるはずです。さらに、長い目で見て本当に良い決断をするための力となるはずです。

 教会では、あなたのおいでをお待ちしています。(大泉聖書教会 牧師池田尚広)