2025年12月号「心の底に残っている思い」

《心の底に残っている思い》
それぞれの国には、その国を代表するような歌手がいます。ニュージーランドの代表的な女性歌手にヘイリー・ウエステンラ(※1)という人がいますが、この人は日本の曲にも興味を持ってくれてレコーディングもしています。たとえば、東日本大震災の時に作られた「花は咲く」(日本語)や、松田聖子さんが歌った「瑠璃色の地球」(英語翻訳)、松任谷由実さんの「春よ、来い」(英語翻訳)などをレコーディングしています。
イギリスで長い歴史を持つサッカーのカップ戦で「FAカップ」というのがありますが、ウエステンラさんはこのゲームの決勝戦のオープンニングでも歌っています。毎年行われるこのゲームでは、ゲストは必ず決まった歌を歌うことになっており、その歌とは、「Abide with me」〔(主(しゅ)よ)共にいてください〕という歌です。


イギリスでのサッカースタジアムの雰囲気は、日本のような女性も安心して観戦できるような雰囲気ではありません。入れ墨をしているような荒くれ男たちが殺気立って試合の始まるまえから騒いでいます。
しかし、ゲストが「Abide with me」を歌い始めますと、その男たちはゲストが歌う声に合わせて素直にこの歌を歌いはじめます。
日本語の賛美歌はこの歌を次のように訳しています。
1.「日、暮れて 四方(よも)は暗く
  わが魂(たま)は いと寂し
  よるべなき身の頼る
  主よ 共に宿りませ」  
2.人生(いのち)の暮れ 近づき
世の色香 移りゆく 
とこしえに 変わらざる 
主よ 共に宿りませ


乱暴そうに見える男たちがこのような歌詞の賛美歌をしっかり暗記して歌っていることは、私たち日本人にとっては不思議な光景です。イギリスでは教会に習慣的に通っている者は少なくなっているようですが、多くのイギリス人の中に「私たちの命をはじめとして、この世のいっさいを握っている神」の存在のまえに素直にへりくだる姿勢が、伝統的にまだ残っていると言えるのではないでしょうか。
ところで、この歌が歌われている状況がイギリスドラマの中でもよく見かけられますが、さまざまな場所で伝統的に歌い続けられているのには理由があります。それは限りある人生を見つめながら、どんなことがあっても勇気を持って生きていく秘訣が歌われているからです。
他の節の原語は次のようになっています。


I fear no foe, with Thee at hand to bless;
(私を祝福してくださるあなた[神]が共におられるので私は敵を恐れない)
Ills have no weight, and tears no bitterness.
(病は重くなく、涙も決して苦くはない)
Where is death's sting? Where, grave, thy victory?(どこに死の針はあるのか、墓よ、どこにおまえの勝利があるのか)
I triumph still, if Thou abide with me.
(あなた[神]が共にあるなら、私は勝ちて、あまりがある)
「何かに頼る者は弱い」とか、「自分を強くする」というような考えを持つ人もいますが、人間は何にも動じないような存在になれるでしょうか。ぜひ、この歌で歌われている存在について関心を持ってくださることを願っています。教会ではあなたのおいでをお持ちしています。
〔大泉聖書教会牧師 池田尚広〕
(※1)Hayley Westenra 日本活動名:ヘイリー